
「ベルジャンホワイト」という言葉を聞いたことがありますか?
クラフトビールの中でも特に人気が高く、そのフルーティでスパイシーな独特の風味は、多くのビールファンを虜にしています。
この記事では、そんなベルジャンホワイトの魅力について、歴史的背景から特徴、おすすめの銘柄、そして美味しい楽しみ方まで、余すところなくご紹介していきます。
ビールが苦手な方にもぜひ一度試していただきたい、奥深いベルジャンホワイトの世界を余す所なく見ていきましょう!
ベルジャンホワイトとは? ― 爽やかさの秘密
ベルジャンホワイト(Belgian White)は、その名の通りベルギーで生まれた伝統的なビアスタイルです。どのような特徴があるか、見ていきましょう!

原料
大麦麦芽に加えて、麦芽化していない小麦(生小麦)を主原料として使用します。
さらに、副原料としてオレンジピール(オレンジの皮)やコリアンダーシードといったスパイスが使われるのが大きな特徴です。
外観
小麦由来のタンパク質や酵母により、白く濁った淡い黄色の見た目をしています。
これが「ホワイト」という名前の由来の一つです。
味わいと香り
小麦によるなめらかで優しい口当たりとオレンジピール由来の柑橘系の爽やかな香り、そしてコリアンダーシードのスパイシーな風味が絶妙に調和しています。青りんごを思わせるフルーティな香りを感じることもあります。
苦味
ホップの使用は控えめで、苦味は少なく、ビール特有の苦味が苦手な方にも飲みやすいスタイルです。
アルコール度数
一般的に4.8%~5.2%程度です。
このユニークな組み合わせが、ベルジャンホワイト特有の複雑で爽やかな風味を生み出しています。
ベルジャンホワイトの歴史 ― 消滅の危機を乗り越えた奇跡のビール
ベルジャンホワイトの歴史は古く、中世のベルギーまで遡ります。
14世紀頃から修道士たちによって、ベルギーのフランダース地方、特に小麦栽培が盛んであったヒューガルデン村を中心に、原型となる白ビールが造られていたとされています。

小麦栽培が盛んであったため、この地域で小麦を使ったビール醸造が発展しました。
19世紀にはヒューガルデン村に多くの醸造所が軒を連ねるほど人気を博しましたが、1842年にチェコでピルスナーが誕生すると世界的にラガービールが主流となり、伝統的なエールビールであるベルジャンホワイトは次第にその姿を消していきます。
そして1957年、ヒューガルデン村にあった最後のベルジャンホワイト醸造所「トムシン醸造所」が閉鎖され、この伝統的なビアスタイルは一度完全に消滅してしまいました。
しかし、そのわずか3年後、奇跡が起こります。
トムシン醸造所の元従業員であったピエール・セリス氏が、村人たちの「あのホワイトビールをもう一度飲みたい」という声に動かされ、私財を投じて伝統的な製法を復活させたのです。
彼が「ヒューガルデン・ホワイト」と名付けて再び世に送り出したベルジャンホワイトは、そのすっきりとした飲みやすさから若者を中心に瞬く間に人気を博し、ベルギー国内だけでなく世界中へと広まっていきました。
ピエール・セリス氏の情熱がなければ、私たちは今日ベルジャンホワイトを味わうことはできなかったかもしれません。
ベルジャンホワイトの魅力の源泉 ― 製法と原料の秘密
ベルジャンホワイトの独特な風味は、その製法と特徴的な原料からもたらされます。
基本的な製法と情報
項目 | 詳細 |
発祥国 | ベルギー |
発酵方法 | 上面発酵(エール酵母) |
アルコール度数 | 4.8%~5.2% |
適温 | 5〜8℃前後(香りを楽しむなら10℃前後) |
ビールの色合い | ペールストロー~ストロー色、白濁している |
特徴的な原料の役割
麦芽化していない小麦(生小麦)
ビールに滑らかな口当たりと豊かな泡立ち、そして特徴的な白濁をもたらします。
タンパク質を多く含むため、ビールにボディ感と独特の風味を与えてくれます。
オレンジピール
主に乾燥させたオレンジの皮が使われ、爽やかでフルーティな柑橘系の香りを与えてくれます。
伝統的には苦味のあるキュラソーオレンジのピールが用いられることもあります。
コリアンダーシード
パクチーの種子で、スパイシーでありながらもほのかに柑橘系のニュアンスを持つ香りをビールに加えてくれます。
このスパイス感が、ベルジャンホワイトの複雑な風味を引き締める役割を果たしています。
ホップ
苦味付けや香り付けのために使用されますが、ベルジャンホワイトではその使用量は比較的少なく、他の原料の風味を活かすように調整されます。
これらの原料が、上面発酵酵母(エール酵母)によって醸されることで、ベルジャンホワイトならではの複雑でバランスの取れた味わいが生まれるのです。
代表的なベルジャンホワイト銘柄ガイド
現在では世界中のブルワリーでベルジャンホワイトが造られています。ここでは代表的な銘柄をいくつかご紹介します。
ヒューガルデン・ホワイト(ベルギー)
ベルジャンホワイトのスタイルを復活させ、世界に広めた立役者ともいえる銘柄です。
オレンジピールとコリアンダーのバランスが絶妙で、爽やかな酸味とフルーティな味わいが特徴。まさにベルジャンホワイトのスタンダードと言えるでしょう。

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水曜日のネコ(日本 / ヤッホーブルーイング)
日本で手軽に楽しめるベルジャンホワイトとして人気です。コンビニでも買える手軽さなのに、本格的なベルジャンホワイトが味わえます。
青りんごやオレンジを思わせる香りと、ほのかなハーブ感が特徴で、すっきりとした飲み口が楽しめます。ネーミングやパッケージデザインもユニークです。

「水曜日のネコ」は、オレンジピールとコリアンダーが香る爽やかなベルジャンホワイトエール。苦味が少なく飲みやすい味わいは、大人世代のリラックスタイムに最適。特徴や開発秘話、美味しい飲み方、ペアリング、実売価格まで詳しくご紹介!週の真ん中に、心ほどける一杯を。
常陸野ネストビール ホワイトエール(日本 / 木内酒造)
茨城県木内酒造が誇る「常陸野ネストビール ホワイトエール」は、世界中で金賞を受賞する人気のクラフトビールです。
ベルジャンスタイルの白ビールで、小麦由来の白濁したクリーミーな味わいが特徴。
オレンジピールやコリアンダー、ナツメグなどのスパイスを使用し、柑橘系の爽やかな香りとハーブの個性的な風味が楽しめます。

DHCベルジャンホワイト(日本 / DHCビール)
DHCが富士山の麓で造る「ベルジャンホワイト」は、オレンジピールとコリアンダーが香るベルギースタイルの白ビールです。
無濾過ならではのクリーミーな口当たりと、小麦麦芽の優しい甘み、酵母由来の爽やかな酸味が特徴。
フルーティで上品な華やかさを持ちながら、スッキリとした後味で、ビールの苦味が苦手な方にもおすすめです。
ジャパン・グレートビア・アワーズ2019金賞受賞の実力派です。

MARCA BREWING BELGIAN WHITE(日本 / マルカブルーイング)
大阪のクラフトブルワリー「MARCA BREWING」が醸す、夏限定の「BELGIAN WHITE」。
和歌山県善兵衛農園産のフレッシュなバレンシアオレンジを贅沢に使用し、鮮烈な柑橘の香りが広がります。
小麦由来の滑らかな口当たりに、コリアンダーのスパイシーさがアクセント。
ABV5.5%、IBU10程度で苦味は控えめ。暑い日にぴったりの爽やかなベルジャンスタイルの白ビールです。

ホワイトベルグ(日本 / サッポロビール)
サッポロ「ホワイトベルグ」は、ベルギーのホワイトビールを手本にした新ジャンルのお酒です。
ベルギー産麦芽と小麦麦芽を使用し、コリアンダーシードとオレンジピールで香り付け。
フルーティで華やかな香りと、爽やかで飲みやすい味わいが特徴です。苦味は控えめで、ビール初心者にもおすすめ。国際的な味覚コンクールでも多数受賞しており、手頃な価格で本格的な風味が楽しめます。

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これら以外にも、国内外の多くのクラフトブルワリーが個性豊かなベルジャンホワイトを醸造しています。ぜひ色々試して、お気に入りを見つけてみてください!
ベルジャンホワイトを最高に楽しむためのヒント
ベルジャンホワイトの魅力を最大限に引き出すためには、飲み方にも少しこだわりたいところです。
グラス選び
香りを楽しむためには、チューリップ型のグラスや、口がすぼまった丸みのあるグラスがおすすめです。これらの形状は、豊かな香りをグラス内に留め、飲む際に存分に感じさせてくれます。

最適な温度
一般的には5℃~8℃程度が飲み頃とされています。もっと香りを楽しみたいときは10℃前後にすると香りがより強く感じられます。冷やしすぎると香りや旨味を感じにくくなるため、少し高めの温度でゆっくりと味わうのがポイントです。
注ぎ方
ベルジャンホワイトは酵母が瓶の底に沈殿していることがあります。
そのため、グラスに注ぐ際には、まず静かに2/3ほど注ぎ、その後、瓶や缶を軽く揺すって底の酵母を混ぜてから残りを注ぎ足すと、より風味豊かで白濁した本格的な味わいを楽しめます。
絶品ペアリング:ベルジャンホワイトと料理のマリアージュ
ベルジャンホワイトは、その爽やかでスパイシーな風味が、様々な料理との相性を良くします。
- 魚介料理
- ベルギーの定番料理「ムール貝のビール蒸し」は鉄板の組み合わせです。アサリで代用しても美味しくいただけます。その他、白身魚のソテーやカルパッチョ、サーモンのマリネなど、さっぱりとした魚介料理とよく合います。
- ハーブ・スパイスを使った料理
- コリアンダーのスパイシーさが、エスニック料理(特にタイ料理やベトナム料理など、パクチーを多用するもの)やハーブチキン、香草焼きなどと素晴らしいハーモニーを生み出します。
- 軽めの料理
- グリーンサラダやピクルスなど、フレッシュな野菜を使った料理とも好相性です。ベルジャンホワイトのフルーティさが、野菜の風味を引き立てます。
- 揚げ物
- 意外かもしれませんが、フライドポテトとの相性も抜群です。特にベルギー発祥とされるフライドポテト「フリッツ」に、マヨネーズと唐辛子を混ぜた「サムライソース」を添えれば、本場ベルギー流の楽しみ方ができます。
- その他
- カレーとのペアリングもおすすめです。スパイシーなカレーとベルジャンホワイトの爽やかさが互いを引き立て合います。




ベルジャンホワイトの持つ柑橘系の香りは、料理の臭みを和らげたり爽やかな後味をもたらしたりする効果も期待できます。
いろいろなペアリングを試してみるのもいいですね!
似ているようで違う?他の白ビールとの比較
「白ビール」と一口に言っても、ベルジャンホワイトの他にもいくつかのスタイルがあります。代表的なものと比較してみましょう。
特徴 | ベルジャンホワイト | ヴァイツェン (ドイツ) | アメリカンウィートエール (アメリカ) |
主な原料 | 麦芽化していない小麦、大麦麦芽 | 小麦麦芽(50%以上)、大麦麦芽 | 小麦麦芽、大麦麦芽 |
副原料 | オレンジピール、コリアンダーシードなどスパイスを使用 | 原則として使用しない(ビール純粋令に準拠) | ホップの特徴を活かすことが多い。スパイスは必須ではない |
香りの特徴 | 柑橘系、スパイシー、フルーティ(青りんご様) | バナナ様、クローブ(丁子)様 | ホップ由来の柑橘系やフローラルな香り、クリーンな小麦の風味 |
味わいの特徴 | やさしい酸味、まろやか、爽やか | フルーティでまろやか、酵母由来の複雑な風味 | 比較的ドライで爽快、苦味は様々 |
代表的な銘柄 | ヒューガルデン・ホワイト、水曜日のネコなど | エルディンガー・ヴァイスビア、パウラナー・ヘフェヴァイスビアなど | ブルームーン(副原料あり)、多くのクラフトブルワリーで製造 |
このように、同じ「白ビール」でも原料や製法、そして生まれる風味は異なります。
飲み比べてみるのも楽しいでしょう。
まとめ:ベルジャンホワイトの魅力に酔いしれよう
ベルジャンホワイトは、その華やかな香りと爽やかな味わい、そして苦味の少なさから、クラフトビール初心者の方や、普段あまりビールを飲まないという方にも非常におすすめしやすいビアスタイルです。
一度はその歴史が途絶えかけたものの、一人の情熱によって復活し、今では世界中で愛されています。
様々な料理との相性も抜群で、食卓を豊かに彩ってくれること間違いなしです。
この記事を参考に、ぜひ色々な銘柄のベルジャンホワイトを試して、あなただけのお気に入りを見つけてみてください。
きっと、ビールの新たな魅力に出会えるはずです!
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